ゼミ会誌「譯叢」

                   


  目録

   1.「譯叢」の刊行にあたって

   
2.韋應物傳(韋応物伝)  K.N.訳

   
3.宋濂傳  K.F.訳

   
4.李清照詞抄譯  N.I.訳

   
5.「徐福」史料選譯  S.S.訳釈


1.「譯叢」の刊行にあたって

 漢文ゼミでは時々翻訳集を出すことにしている。「譯叢」という。みんなで訳そう、何とか「譯そう」、
とにかく訳せば、漢方の薬草ではないが、じわりと滋養分が効いてくる。誌名にはそんな思いが込め
られている。
 漢文研究の手始めには、中国の文学作品を訓読する作業を必要とする。それには必ず翻訳が
ついてまわる。もちろん直読直解できれば、それに越したことはない。しかし、現実はいささか異なる。
下訳を作り、調査と考察を繰り返し、また訳し直し、それなりの訳をこしらえていく。辞書で漢字の訓
(よみ)だけ分かっても、決してうまくいかない。語彙の歴史的文化的背景、著作者の事績、内容に
関するあらゆる調査研究の裏付けがいる。それが分かってはじめて、合点のいく精確な訳もでき
あがる。著作者の思想感情にも近づける。手作業で訳を書きおこしてはじめて見えてくる世界のある
ことも実感できる。訓読ならびに翻訳は、漢文理解の真の力量が問われるところだ。
 卒業論文・修士論文完成の後、資料として活かし得たもの以外にも、使われなかったたくさんの
翻訳が残る。読み物として面白いもの、他にも意味がありそうなもの、別なテーマなら使えたもの、
眠らせてしまってはもったいない。「譯(訳)」の「叢(あつまり)」という形、それでいい。今のところ
(こんな御時勢じゃあ)使い道がないかに見える漢文も、人目に触れるようにだけはしておきたい。
文物を遺すんだというと大げさになるが、漢文もすてたもんじゃない。ほんとは、誌名にはそんな思い
も込められている。